2005年06月15日

いんちきバサーの誕生日

その夏は釣り三昧だった。

もともと私はインドアで夜行性だった。
学生時代などは見事に昼夜が逆転していたし、
物凄くものぐさで、どこかに出かけるよりは部屋でビデオを観ていたい。
友人であればこれに飲みが加わるのだけど、
恋人だとか彼氏だとかいわれる存在だとそうもいかない。

あんなにアホみたいに外で遊んだ夏って記憶にない。
それまでもこれからも、本当にあの夏きりだと思う。

そもそも釣りに行きたいと言い出したのは私だった。
山の渓流釣りにぼんやりとした憧れを持っていたのだ。
きれいな空気と水、引きを待ちつつ岩場で昼寝。
そんなのんびりとした妄想で頭がいっぱいだった。
まあのんびりって時点で勘違いなんだけど。
釣りはせっかちな人により向いているとはよく言われることだ。

その人は釣り好きだった。「バサーと呼べ」と豪語していた。
仕事が定時過ぎると残業の合間を縫って釣具屋に行き、竿を見て回っていた。
一度私の部屋にゴキブリが出やがり、慌てて電話をしたことがあったのだが、
そのときも当たり前のように釣具屋にいた。
「ゴキブリが出たから助けろ」と訴える私に、
笑いながら「えー、今竿見てるんだけど」とにべもない。
恐ろしさのあまりゴキブリの動きを悲鳴つきで実況する私に、
「自分で何とかしなさいよ」とさらに冷たく言い放った。
実況途中でゴキブリは外へ出て行き、結局笑われただけで電話を終えたのだが、
よく考えると電車で1時間かかる場所にいる相手に助けろも何もなかった。
もっとも近くにいたとしても竿を選ぶだろう。そういうやつだ。

そういうやつだからこそ、釣りに連れてけという私の願いは渡りに船で、
何から何まであっという間に用意してくれた。尋常ではない迅速さで。
ただし場所は山でなく霞ヶ浦。バス釣りといえば、のあの場所だった。
そこでもう私の夢は脆くも崩れ去ったわけだが、
まあ『釣り』自体に憧れがなかったわけでもないのでよしとした。
しかし自分で希望しておいて言うのもあれだが、用意や説明をする姿を見て
なんでこの人こんなにノリノリなんだろうと思った。

何しろ霞ヶ浦までが遠いので、早起きしてドライブがてら行くことになるのだが、
早朝の道路の空き具合や明け行く空の色が、
あれほど気持ちのいいものだとはそれまで知らなかった。
2人で必死で眠気を我慢しつつ、音楽に合わせてよく合唱した。
何というか、バカな2人だった。

しかしどちらかというとバサーは私の方だった。
私の前で自称バサーはブラックバスを釣り上げたことはなかった。
初めて垂らした私の釣り糸にデカいバスが食いついたのだが
(ビギナーズラックですね)、
それを見たバサーは「俺そんなデカいの釣ったことない!」と驚愕し、
「頼むから竿を持たせてください」と情けない声を出した。

デカいのどころか果たしてバス自体釣り上げたことがあるのか。
そのバスを写真に収めようと私が車にカメラを取りに戻っていたときに、
後ろで見ていた若い女の子の嬌声にニヤニヤし、
バスを見せびらかした拍子にうっかりリリースしてしまったバサーに私は訊きたかった。
本当は陸バサー(そんな言葉はないが)なんじゃないのか。
選び抜いた釣具を手に、タオルで頭を括り、
日焼けも構わず竿の先を見つめるその割に、
釣れるのは常にブルーギルだったバサーに私は訊きたかった。

当時仕事について悩んでいたバサーであったが、
いつものように釣果は無事ボウズで終わった帰り道、
車の中で唐突に「決めた。俺釣りキチ四平になるわ」と抜かし、
「おーれは釣りキチ四平だ〜い」と歌い出したことがあった。
大笑いしつつも、家に帰ってからほんのり心配になった。

今日はそんなバサーのお誕生日。
おめでとう。元気にしてるかい?
posted by 6 at 15:39| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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