2005年07月08日

電車の恋・2

長くてごめんなさいよ。まさかこんなことになろうとは。
続きです。


その人が落胆したのがはっきりとわかった。肩が落ちたのが見えたのだ。
しかし一瞬ののちに微笑んで頷いた。

「ありがとう。それじゃ」

それだけだった。そのままくるりと元来た道を帰って行った。
何ヶ月も何ヶ月も、これを言うためだけにこの駅で降りていたのか。
話しかけられなかったのは、やっぱり私が音楽を聴いていたからだったんだ。
誰だって、自分の都合で相手の邪魔になることをするのは嫌だ。それが一瞬でも。
だから私がイヤホンを外す瞬間を待った。

そして私の好きな人もまた、その電車の同じ車両にいた。
私に「彼氏」でなく「好きな人」の存在を訊いたことからもわかるように、
その人は知っていたと思う。
私の視線の先を辿り、ガッカリした表情を浮かべていたことが何度となくあった。
それは多分、彼がいないことに気づいて落胆する私と似ていただろう。

だからこそ思った。その勇気はどこから来るのだろうと。
もし耳が聴こえなかったとしたら、
私は好きな人に気持ちを伝えられただろうかと。
好きな音楽を聴きながら姿を見ているだけで、
満足と自信のなさをすり替えているような小心者の自分。
答えは明白だった。

泣きながら家に帰った。理由のわからない涙が止まらなかった。
心配した友人が家に来てくれたが、うまく言葉にならなかった。

数日後、私はその人に手紙を書いた。内容はあまり覚えていない。
多分ありがとうとかごめんなさいとか、そんな感じだったろう。
場所が少し離れはしたものの、同じ車両であることには変わらなかったので、
降り際に手渡した。凄く驚いた顔をしていたのを覚えている。

その後、私の降りる駅でまたその人に話しかけられた。
話がしたいと言われたので、当時あった橋の上で並んで話した。

そんなこともあろうかと筆談用に用意してあったノートを取り出すと、
笑って首を振って、「ゆっくり話してくれれば口元でわかるから」と言われた。
どうしてもわからなかったら書くよと。何だか無知な自分が恥ずかしくなった。

名前や住所、年齢や仕事など。
自分が1歳年下だと知ると落ち込むような顔をしたり、
互いの職種がかなりつながりのあるものだとわかって喜んだり、
何だか純粋で可愛らしい人だった。
耳は生まれつき聴こえなかったわけではなく、幼い頃に出た高熱の後遺症だそうだ。
双子の兄弟がいると言っていた。
同じ顔をしているのに一方は耳が聴こえ、一方は聴こえない。
思うことすら無責任だとはわかっているが、切なかった。

凄く寒い日で、私の震えが止まらなくなったのをきっかけに解散した。
別れ際に1枚ガムを貰った。トライデント。今もあるのかな。

それからしばらくして、帰りの電車を待っていた私の前にその人が立った。
「これから飲みに行くんだ」とジェスチャー付きで言いながら、
私に折りたたんだ紙を差し出した。

記憶はそこで途切れている。
私はちゃんと手紙のお礼を言えただろうか。
たとえば「飲み過ぎないでね」と笑って言えただろうか。

手紙には私を応援する言葉だけが書かれていた。
「好きな人を諦めないでください」と。
その後も時々姿を見かけたが、もう話すことはなかった。


ああヘコむなあ。思い出すと必ずヘコむんだこれ。
なんか電車つながりだなーと軽い気持ちで書き始めたらこれですよ。
しかも長編。無駄に長い。まとめるのが下手ですみません。
読み飛ばしてください。

『愛していると言ってくれ』は見ることができなかった。
ちょうど同じようなタイミングで、何でこんな偶然があるんだと恨めしかった。

時々思い出すたびに、その人が幸せであるように結構本気で祈ってしまう。
posted by 6 at 04:44| 埼玉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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