2005年08月26日

台風一過(1)

その後はいつも島のような空や空気だと思う。
今朝、洗面所から覗いた空と薫ってきた空気は、島のそれだった。

起きる間際に見ていた夢はリアルで辛いものだった。
水のようなそうでないような、ともかく大事な液体を持っていて、
それをにゃにゃこに飲ませなければならないのだが、一向に飲んでくれない。
私は絶望的な気持ちになりながらも、液体を手にしたまま良案はないかと考える。
混ぜる。無理だ。かける。もっと無理だ。流し込む。それしかないのか。
でもにゃにゃこには負担だ。これ以上はもう無理だ。
どうしたら、いったいどうしたら。
そこで目が覚めた。夢の中ににゃにゃこの姿はなかった。

にゃにゃこの不在。喪失感とも違う、この「いない」感じ。
これはなんだろう。

どこまで書けるかわからないし、日が空いて飛び飛びになるかもしれないけど、
きちんと書き残しておこうと思う。


そのときには激しい痙攣発作が起こることを覚悟していた。
にゃにゃこが入院していたとき、同じ病気の他の猫ちゃんが痙攣している様を見て、
いつかにゃにゃこの身にも同じことが起こるのだと悟った。
それを何があっても動じず受け止めようと思った。
しかし私の悲壮な顔つきが情けなかったからだろうか。
にゃにゃこは一度も痙攣を起こすことはなかった。

前夜までと違ったのは、いつもはゆったりだった呼吸が浅く速くなったこと。
大好きだった蒸しタオルでの体拭きを嫌がったこと。
私はそのときが近いことをギリギリまで気づけなかった。

ぐんにゃりとしたにゃにゃこをタオルにくるんで抱き、2階に連れて行った。
最初ににゃにゃこの部屋、次に私の部屋。
いつも見ていた窓辺から朝方の外の景色を見せた。

1階の居間に戻り、以前緊急用に処方されていた、
ホメオパシーのレメディのうちの一つを飲ませた。
呼吸困難時用のもので、水に溶かしている暇などなかったので粒のまま。
口を開けさせようと顔を上に向かせ、歯に触れたら渾身の力で噛まれた。
どんな状況でも噛むことなど一度としてなかったにゃにゃこが、
私の右手の親指2箇所に深々と穴が開くほどに強く。
悲鳴を上げるほどの痛みだったが頭は冷静で、血を洗い流しながら、
「こんなに強く噛めるなら、もしかしたらまだ」などと思った。

15分後にもう一度同じレメディを。水に溶かしてシリンジで飲ませた。
時折軽くもがくような仕草をしては、体をくねらせて鳴く。
そのたびにタオルからずり落ちる体を支えた。

レメディが効いてきたのかそうでないのか、呼吸が落ち着いてきた気がした。
しかしもがく間隔が狭まってきていた。
内線でブザーを押した。押した後で階段を駆け上がった。
親の寝室へ行き、飛び起きた親に向かって「にゃにゃこが」「早く」と叫んだ。
「死んじゃいそうなの?」と母が慌てたように言った。
「わかんない」と答えた。どうしても頷きたくなかった。

それからは断片的にしか覚えていない。
にゃにゃこを胸に抱いていた。
抱かれたままにゃにゃこはそっともがいていた。
両親がにゃにゃこを撫でていた。
名前を呼び、言葉をかけていた。母は泣いていた。
私はバスタオルの上ににゃにゃこを下ろし、「まだ嫌だ」と泣き叫んだ。
にゃにゃこが使っていたもう1枚のバスタオルを抱き締め、泣き喚いた。
泣きながら、緊急時用のもう一つのレメディを取り出した。
両手を突っ張らせて「うーん」と猫らしくなくにゃにゃこが唸ったのが先だったか、
最期のときに苦しまずに逝けるというそれを飲ませたのが先だったか。
よく覚えていない。

触られるのが好きなにゃにゃこらしく、最期の瞬間まで触られっぱなしだった。

呼吸が止まっていることはわかっているのに、
寝ているようにしか見えないから信じることができなかった。
母が以前買ったという聴診器を出してきてにゃにゃこの胸に当てたが、
それをするまでもなく、心臓が動いていないことはわかりきっていた。
痩せてしまったにゃにゃこの体は、
寝ているだけでも心臓の動きが見て取れたからだ。
でも、動いていないのに「もしかしたら」と思ってしまう。
硬直が始まってもなお、ずっと「もしかしたら」と思い続けていた。
posted by 6 at 15:13| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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