2005年09月23日

台風一過(9)

問い合わせの電話を切ってもなお延々と続く
愚痴混じりの話題から逃れたくて事務所を出た。
行くところもなく、また遠く離れたいわけでもなく、
とりあえず隣り合う建物に入った。あの祭壇のある部屋。

最初、にゃにゃこと共に入ったときにはまるで余裕がなく、
何がどうなっているのか全く眼に入って来なかった。
昼なのに薄暗いが、清潔で静謐な印象。
それほど広くはない室内。12畳ほどだったろうか。
縦に長く、壁際には棚のように小さく区切られたスペースがたくさん。
その一つ一つに名前が貼り付けられていて、
犬や猫はもちろんハムスターから猿に至るまで、様々な子達のお骨や写真があった。
ここで合同で供養されているのだろう。
心の中で手を合わせながら一つ一つを見た。

生前に好きだったご飯やお菓子。使い古されたおもちゃや首輪。
飾られた写真から、どれだけ愛されていたかが如実に伝わってきた。
声は聞こえなくても、そこここから漂う「とても幸せだった」という温かい記憶。
「楽しい思い出をたくさんありがとう。私たちの家族、○○へ」
写真に書かれたメッセージを読んで少し泣いた。
長い時間をそこで過ごした。


ブザーのような音が聞こえた気がして外を見た。炉のある建物からだった。
終わったのだろうか。
ほどなくして事務所から係の、あの上司の男性が出てきて建物に入り、奥に消えた。
何かを止めるようなガシャンという音の後、響き渡っていた大きな機械音が止んだ。
再び姿を現した男性は、隅にあった大きな扇風機のような物を
部屋の中央付近に運び、スイッチを入れた。
風。

音もなく滑るように運ばれて来た台は見覚えのある物だった。
風が当たる位置に置かれ、白い灰が2、3枚、花のように舞った。
男性は扇風機の頭の部分を調節し、風が当たっていることを手のひらで確かめた。
眼を凝らして見た。台の上に乗る白いもの。
充分に台が冷えた頃、私たちは呼ばれた。

にゃにゃこは真っ白だった。
使わざるを得なかったステロイドのせいで、
骨の色が変わってしまっているのではとの思いは杞憂だった。
母は反射的にまた泣いていたが、私は不思議と悲しくなかった。
ついさっきまでの、指に、この腕に残るにゃにゃこの感触からすると、
「これが骨です」と言われたところでピンと来なかったのかもしれない。

渡された箸で、指示された順番通りに骨を拾った。
住職さんと男性が、しきりに「きれいに残っているねえ」と繰り返した。
他の子の骨は見たことがないので比べることはできなかったが、
確かに頭も爪も尻尾の骨もきちんと残っていた。
ご飯を置いた場所にも形跡が残っており、邪魔だったかなあと心配になった。

骨とわかるものはほぼ拾い終え、両親は拾うことを止めたが私は箸を置かなかった。
どんな小さなかけらでも、もしかしたら骨ではなかったかもしれない物でも、
可能性のある物は全て拾った。拾い尽くして蓋を閉じた。
「もういいですね」と終わりを告げられそうになったが、
私は「もうちょっと」と首を振った。
明らかに骨ではない物、体内に残っていた便や灰も、
最後の瞬間までにゃにゃこと一緒にいたのだ。
そっと集めてビニール袋の中に入れた。
網と受け台の上には何もなくなった。

全神経が眼と指先、拾うということに集中していた。
鬼気迫る顔つきだったのだろうと思う。
皆無言で私が箸を置くのを待っていた。
住職さんが「そうだよね。全部拾いたいよね。そうだよ」と、
小さな声で呟いていたのは何だったのだろう。
posted by 6 at 12:11| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/7055877
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。